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本人の声に耳を傾けるところから

2016年5月16日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」いわゆる「障害者差別解消法」が今年4月から施行されています。

 2007年に国連の障害者権利条約に署名して以来、日本政府は国内法の整備に着手しました。2011年に障害者基本法を改正して「差別の禁止」基本原則を明記し、2013年に障害者差別解消法を制定することで、ようやく2014年に障害者権利条約の批准・締結に至りました。以後、政府は障害者への差別的対応を解消すべく関係機関や事業所に向けた「ガイドライン」を次々と示しています。

「差別の禁止」と「合理的配慮」の義務化

 「障害者差別解消法」の主な内容は、障害を理由とした「差別の禁止」と、障害者への不利益を無くすための「合理的配慮」を関係者に求めるものです。

 「差別の禁止」については、正当な理由なく、障害を理由として、サービス提供の拒否や場所・時間帯の制限、障害者のみに条件を付する等により障害者の権利を侵害することを「不当な差別的扱い」と規定し、これを禁止しています。

 また、「合理的配慮」については、障害者から意思の表明があった場合、負担が過重でないという条件付きで、障害者の権利を侵害することとならないよう、当該障害者の状態に応じて、社会的障壁の除去に向け必要かつ合理的な配慮をしなければならないと規定し、行政機関には義務、事業者には努力義務が課されています。 

差別解消のために懸念される課題

 「障害者差別解消法」は、日本初の差別規制法ともいえる内容を持っています。しかしながら、「不当な差別」に対する規制・調整機関を新設せず、既存の行政機関で対応するとしており、規制の効果がどれだけ上がるかの点に疑問が残ります。

 また、「合理的配慮」は「過度の負担を課さない」範囲内であることが強調されており、これが障害者を排除する抜け道として利用されかねない可能性があります。しかも、「合理的配慮」への取組には障害者からの「意思の表明」が前提となっており、当事者が声を上げなければ不利益な状況は改善されません。事業者にとっては努力義務であり、主体的に問題解決に取り組む必要性が弱くなっています。結果として、当事者の意思に対して事業者主体で物事が進んでしまいかねない状況です。それだけに、障害者の意思表明を支援する仕組みや機能が重要となっています。

社会福祉法人としての課題

 「障害者差別解消法」を推進していくために、私たち社会福祉法人こそが積極的に取り組むべき課題があります。

 まず第1に、本人主体の福祉サービスの実現です。福祉サービス事業者として社会福祉法人には、一人ひとりの障害者のニーズに正面から向き合った事業の展開が何より問われています。事業の効率性や収益性を優先するのではなく、障害者の地域生活へのニーズにどう対応するか、どう効率的に事業化するかという姿勢が求められています。障害福祉サービスに民間事業者も多く参画してきている現状を考えた時、障害福祉のパイオニアとしての社会福祉法人こそが本人中心の支援の輪を広げていく役割を果たさなければなりません。

 また、事業者として障害者の直接雇用の拡充はもとより、非専門的業務の切り出しによって、障害者のはたらく場の創出に積極的に取り組むことも重要です。

 第2に、本人の意思決定支援の取り組みです。「障害者差別解消法」は事業者の努力義務に依存する内容となっており、障害者の意思表明を支援し、ニーズの実現につなげていくソーシャルワーカーとしての役割は大きいといえます。社会福祉法人が、計画相談等の個別支援計画策定の役割を積極的に担うことによって、本人の意思決定支援に関わり、関係サービス機関との調整等に大きなリーダーシップを発揮していくことが重要です。

 第3に、今後の課題を社会に発信していく役割です。社会福祉法人は今後発生するであろう「不当な差別」や「合理的配慮不履行」の実態を、障害者本人と一緒に市町村の関係窓口にしっかり届け、解決を求めていかなければなりません。また、市町村に設置される予定の「障害者差別解消支援地域協議会」にも積極的に参画し、事例の提供や問題の共有を通じて地域における障害者支援体制づくりに貢献していくことが重要です。

 「障害者差別解消法」施行後まもなく、あろうことか衆議院厚生労働委員会での参考人質疑で当初予定されていた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の団体代表が出席できなかったという事態が発生しました。与野党の国会運営の駆け引きの中で起こった結果であったようですが、テーマが障害者総合支援法改正をめぐる議論であったが故に、当事者の声を最優先に聞くという運営が出来なかったことは残念でなりません。

 障害者差別解消への取り組みは、悪質な事例を摘発・規制することは当然ですが、障害者を当然のごとく排除してしまっている社会の現状を、全ての国民が当事者として考え、どうすれば克服していけるかという事を一緒に考えていく契機にすることが大切です。その際、根拠になるのは、一人ひとりの障害者の思いであり、本人を取り巻く社会環境です。本人がその人らしい地域での暮らしを一緒に考えていく具体的な取り組みこそが、社会をよりよいものに変えていく力を生んでいくのではないでしょうか。