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いわゆる「大阪都構想」(=特別区設置協定)に反対します!

2015年4月22日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 5月17日に行われる大阪市民による住民投票。そのテーマは「特別区設置協定書」についての住民の賛否を問うことです。橋下市長が打ち出した「大阪都構想」は、堺市が拒否した結果、単に大阪市を5つの特別区に分割して、広域行政を大阪府と100を超える事務組合(特別区代表による)に移行するという改革案に変わっています。

 現在、特別区設置協定書についての住民説明会が市内各地で開催され、その説明パンフレットが全戸配布されています。この協定書に関する意見は様々ありますが、特に社会福祉に取り組む立場から考えを整理してみました。

橋下市長の思い

  住民説明会パンフレットの冒頭に橋下市長の「特別区設置協定書」への思いが書かれています。その中では、大阪府と大阪市を再編し、特別区を設置するメリットを以下の3点として挙げています。

  1. 二重行政の無駄=税金の無駄遣いが解消できること。
  2. 大阪全体の戦略をたてることで、大都市として発展の道がひらけること。
  3. 何よりも、住民の皆さんの声を汲み取り、応えることができる自治の仕組みになること。

 今のままで問題解決ができるのか、知事と市長を経験した自分としては、大阪府と大阪市という役所を一から作り直し、未来の大阪にふさわしい姿にしたいという強い思いを述べています。

「二重行政の無駄」とは?

府市統合の取組み(AB項目)など

 右の資料は住民説明会で市長が使う「二重行政の無駄」のスライドです。

 府と市が大阪市内地域で施策が重さなっている部分もあり、これまで重複解消に向けた府市の議論や調整が進められてきました。しかし、府立病院や市民病院のように、実際の市民ニーズがあり、府の管理に移行しても統廃合できないものもあり、一概に「無駄」とはいえません。また、スライドの最後の「りんくうゲート」と「ワールドトレード」の二つのビル建設は、「無駄の象徴」として取り上げられていますが、これはバブル経済にあおられた結果としての失政の問題で、二重行政とは関係ありません。

 札幌市から熊本市まで全国に20ある政令指定都市の中で、道府県と政令市の二重行政問題はありますが、政令市を解消して道府県に権限を委譲しようという議論はどこにも起こっていません。むしろ「固定資産税・都市計画税」等の豊かな税収を求めて政令市への格上げを求める自治体が増えてきたのが実態です。

 さらに協定書では、特別区設置に伴い介護保険や国民健康保険、その他120もの事務を府と各特別区の代表による「一部事務組合」を作って運営するとしており、結果として「大阪府」「一部事務組合」「特別区」の三重行政を作ることになってしまいます。

住民サービスの水準は維持されるのか?

 住民説明会パンフレットでは「住民サービス水準は維持する」とされていますが、それを保障する根拠が極めてあいまいです。

 特に、財源を見ても、特別区の収入は個人所得税を中心にこれまでの4分の1になり、政令指定都市として持っていた「固定資産税・都市計画税」「法人市民税」等の豊かな財源は大阪府に渡すことになっています。この財源の7割は特別会計にして大阪府から特別区に戻すとしていますが、この割合も確定していません。いずれにしても、現在の市税収入のうち3割は確実に大阪府に渡し、残りで特別区の運営に当たることになります。パンフレットの中のQ&Aでは税金は高くならないとしていますが、介護保険料や国民保険料はどうなるのでしょうか?

 これまでの税収を基に維持されてきた大阪市の福祉水準や独自事業が、特別区に移行しても維持される保障はどこにもありません。

住民の声を汲み取る自治の仕組みか?

府市統合の取組み(AB項目)など

 ここで注目したいのは、橋下市長が何よりも特別区設置のメリットとして強調している「住民の声を汲み取る自治の仕組み」についてです。

 市長はこの間、「ニア・イズ・ベター」を掲げて市政改革を進めてきました。公募した各区長を局長の上に位置付け、住民組織である地域活動協議会と一体になって地域課題に取り組む区政を応援しようというものです。それに伴って各区の予算も増額され、バラつきはあるものの区独自の取り組みも広がりつつありました。

 住吉区では、地域住民・行政・専門機関が一体となって要援護者を地域で見守る「地域見守り支援システム」の構築への取り組みが昨年始まり、今年五月から区役所に「地域見守り支援室」を開設する予定です。これは他区に先駆けた取り組みで、区や福祉局の予算を統合的に活用し、かつ、高齢・障害等の制度の隙間をうめる総合的な相談支援の仕組みを地域住民の参加でめざそうというものです。現在の住吉区は人口155,000人で、14の小学校区に4つの包括支援センターが拠点を置いて地域の福祉課題を住民と一緒に取り組んでいます。この支援システムはそれを更に充実強化しようというものです。

 ところが、住民説明会のパンフによりますと、住吉区は阿倍野・東住吉・平野・住之江(東部)の4区と統合されて「南区」となり、人口693,000人と6倍もの規模の特別区になるとされています。身近な問題に取り組む小学校区は78にもなり、包括支援センターの配置は19ヶ所に上ります。

 橋下市長は既存の区役所は支所として残り、「これまで同様に住民サービスの低下は起こりません」といいますが、住民自治で一番大事なのは、住民が単なるサービスの受給者でなく、行政と一緒にまちづくりを担う主体者として活動できるかどうかということです。地域の問題を行政や専門機関任せにするのでなく、自分達の問題として、住民自身が一緒になって解決していける活動やまちづくりこそが求められています。協定書では市長が残すとした「支所」に地域のまちづくりの決定権限を保障するかどうかについては全くふれられていません。説明会での市長の答弁でも、「選挙で選ばれた区長と区議会議員が決めること」と他人事のようです。

活力ある大阪市の再生は地域社会づくりにかかっている

 橋下市長は、大阪市を解体し財源を大阪府に一元化することで、大都市開発に集中して東京に並ぶ第2の「都」をめざしたいようですが、「一人のリーダー」が方向を示し、市民がその恩恵をこうむるという非常に古い政治のスタイルに思えます。大都市の多様な課題を解決していくためには、一部の指導者の知恵だけでは困難で、課題の当事者を含め多様な関係者と協働しながら問題に取り組むことが不可欠です。

 今日の福祉は、ホームレス、外国籍住民、多重債務者など、高齢者や障害者という従来の制度の枠を越えた課題の多様化と、子どもや高齢者等の虐待や貧困などの生活問題、ゴミ屋敷や引きこもり等の社会的孤立などの課題の深刻化が特徴で、これらが複合的に地域の中で問題となってきています。

 社会福祉の政策では、これらの課題を「地域福祉」という視点で取り組んでいく必要性を強調してきました。課題に対して個別制度で対応するのではなく、「生活のしづらさを抱えた地域住民」として総合的に支援していくこと、困難を抱えている人を同じ地域で住む住民と一緒に支援していくことで、「しんどい時はお互いさま」の支え合う地域づくりを目指そうとしています。

 介護保険制度で重視されている「地域包括ケアシステム」など、あらゆる福祉施策が「地域」をベースに住民と一体になって支援する道を模索しています。多くの自治体が地域の活性化にむけて、福祉を中心にしたまちづくりに取り組んでいるのにはそのような背景があるわけです。

 「ニア・イズ・ベター」を掲げ、大阪に活力を生み出そうとしていたはずの橋下市長は、今や残念ながら地域の活力を軽視し、「大都市経営」に心を奪われているようです。

 地域住民との協働を忘れた自治体に未来はありません。