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2023年度事業計画

更新日:2023年4月10日

1.法人をめぐる情勢と課題

(1)社会不安の拡大と福祉課題

 2020年から日本を覆ったコロナ禍で、多くの人命が失われ、罹患後遺症や倒産・失業問題、子どもの教育困難、自殺増加等の多くの社会問題が噴出した。政府の打ち出すコロナ対策は一貫性を欠く対処策に終始し、基本的には国民の自助努力に委ねることになり、社会的に弱い立場の人々へのしわ寄せの結果、社会の格差は一層拡大している

 2021年10月に発足した岸田政権は、社会の格差を解消する「新しい資本主義」を掲げたが、具体的な中身を提示できず、既存の政策に引きずられながら支持率を大きく落としている。今年の年頭に打ち出した「異次元の少子化対策」も、中身と財源を明示できず、国会議論も「児童手当の所得制限」を撤廃するかどうかという些末な点に集中しており、教育の無償化、若者の所得や住居の保障という根本的な課題に切り込む姿勢は全く見られない。

 世界主要国の中で経済成長率や労働者の給与水準が最低レベルのまま、1990年のバブル崩壊以降の「失われた30年」がさらに延びようとしている。日本社会の再生のためには、自助を中心とした市場競争重視の政策を転換し、格差の解消、安心社会のための公助・共助を中心とした福祉的社会への転換が求められている。

(2)社会福祉諸制度の未来

 この間、日本社会の未来について様々な議論がされている。団塊の世代すべてが後期高齢者になり医療・介護費の増大と地域の担い手不足が予想される「2025年問題」と、更に15年後に現役人口(20〜64歳)が1000万人減少する「2040年問題」である。近い将来の危機を前に、社会保障制度の持続可能性をめぐる議論が政府審議会等で進められている。

 議論の焦点は、「財源問題」と「事業生産性」に置かれ、財源では利用者負担増と、自治体やボランティアへの制度移行(丸投げ)が検討され、生産性ではロボットやAIを活用した「エビデンスのある介護」が強調されている。つまり、制度の持続可能性を自己負担増とサービス抑制で帳尻合わせをしようというものだ。

 そもそも、福祉施策で求められているのは「人権の保障」であり、生産性はその支援の質の向上で評価せねばならない。地域住民の参加も、事業の下請けではなく、社会的つながりを深めて本人の生活を豊かなものにするためである。貧困や加齢・障害などで社会生活に困難な状態になっても、その人らしく社会とつながりつつ安心して暮らしていける社会こそが必要で、社会福祉法はそのために「地域共生社会の実現」を掲げている。理想を建前のように掲げる一方で、本音は市場主義の自己責任というねじれた現状が日本の停滞を生んでいる。

 福祉制度改革が日本の安心社会につながるものとして国民的議論が深められるように、社会福祉に取り組む我々の積極的な発信が求められている。

(3)地方自治体の大きな役割

 20世紀終盤の「地域分権一括法」を契機に、地方自治体の役割は大きく拡大している。福祉をはじめとした主要な施策の多くが自治体業務として国から移管される一方、新自由主義による行政の効率化の動きで、公務員削減・民間委託が急激に広がった。その結果、限られた公務員による事業の管理は形ばかりとなり、実際業務の質は民間に丸投げという事態を生んでいる。結局、非効率な事業実態の放置が税金の無駄遣いにつながり、そのしわ寄せは当事者への人権侵害を生むに至っている。

 そもそも、事業を担うのが「行政」か「民間事業者」かということが問題なのではなく、かれらに「おまかせ」して、市民自身の声が届かない中で事業が進められていくことに問題がある。市民サービスの本当のニーズを知っているのは、それを受け取る住民当事者であるはず。当事者の声を第一に、サービスの在り方が検討され、市民もかかわって事業がすすめられ、評価される仕組みによって本当に効率的・持続的な行政サービスが実現する。自治体は、「おまかせ民主主義」ではなく、市民が自分たちのまちづくりに取り組む主体となっていけるように支援する役割が求められている。地域福祉の具体化として実践されつつある地域包括ケアや福祉のまちづくりは、自治体を活力と魅力あふれたものにする可能性を持っており、我々が日々の活動を通じて貢献できるとことである。

 「大阪都構想」は2回の住民投票で葬られたが、その過程での「総合区」などの市政改革論議は住民自治拡大につながる大きな意味を持っていた。この4月に行われる統一自治体選挙を通じて、支えあい安心して暮らせる地域づくりにつながる大阪市政改革を新しい首長や議員にもとめたい。

2.法人事業の課題

(1)事業の安定的推進

 感染流行による訪問系の利用の抑制、通所系の休所リスクと稼働の不安定、居住施設におけるクラスター対策と施設内療養体制の確保といった一連の困難にその都度直面してきたが、政府の方針見直しで、過去3か年のような状況からは変わり、体制への影響は軽微になる可能性もある。ただ、疾患がなくなったわけではないため、ある程度の感染対策や罹患された方が出た場合の対応などは継続して臨むことになる。

 収益の安定化に関連して、黒字化が見込めない事業については、その設置意義と効率化の可能性や是非なども含めて論議をし、2022年度は旧の大領COCORO児童発達支援の事業を大阪市発達障がい児専門療育事業の受託との併設とし「じらふ長居」に移転開所する形で展開したが、その2年目になり、親子通園や児童発達支援・放課後等デイサービスの利用拡大に向けてSNSでのわかりやすい発信に取り組む。また年度末には地域活動支援センターA型事業の「コロたま倶楽部」の事業廃止をおこない、既存の職員の他部門での配置で業務の合理化を進める。縮小均衡だけではなく、定員に一定の余裕を持つ通所部門での稼働の拡大と、支援の質を下支えできる職員数の確保をしながら、部門間の連携もこれまで通り進めて人件費率の上昇につながらないよう留意をしていく。

(2)事業の質の向上と育成

 現行の介護報酬改訂から創設された科学的介護推進体制加算※に象徴されるような医学モデルに近似した定量的情報に基づく体制整備を全否定はしないものの、支援の質は「それだけではない」と言わざるを得ない。

 利用者の個別のニーズや状況にしっかり向き合い、ご家族や地域や関係機関と連携をしながら環境を整えるという標準化にはなじまないアナログな視点と、様々な方法や表現を駆使し、時には企画やイベント、時には個別対応、なにより思いを探り向き合う日々の介護や支援を通じた福祉実践の積み上げが、支援の質の中核をなすと言える。

 その質を担保するのが職員であり、日々研鑽し、向上を図ることが法人としても重要視している。日常的な部門単位の研修や法人組織としての研修も、なるべく多様な勤務形態の職員をあまねくカバーするために、前年度から動画視聴型研修を取り入れているが、本年度もさらに内容を広げ、アルバイト向け・初任者向け中心にバージョンを拡大する。

 2023年度は中堅職員の退職に伴う欠員の発生と組織の再構築が課題になる、その際に支援の質の低下にならないよう、知識や技術の継承のみならず、支援の価値について押さえなおすことが求められる。

  • 科学的介護推進体制加算…利用者のADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他の心身の状況等に係る基本的な情報に加えて、入所者ごとの疾病の状況等の情報を厚生労働省に提出していることと、必要に応じてサービス計画を見直すなど、サービスの提供に当たって、上記の情報、その他サービスを適切かつ有効に提供するために必要な情報を活用していることが加算の算定要件

(3)泉北拠点における課題

 泉北地区高倉台にある就労継続支援B型事業「みんなのマーケットるぴなす」の近隣に大型スーパーが誘致されることになっているため、従来通りの障がい者就労支援としての「小規模スーパーマーケット事業」の維持は難しい状況が2年以内に現出することが想定される。大型スーパー内での活動場所の確保に向けての交渉及び、そこで展開できる事業としてマーマレードやビネガーの製造販売を考えている。幸いに清水基金から助成が受けられることも決定したため、スムーズに活動変更が進められるよう、利用者への説明や諸調整を行うことになる。

(4)地域公益活動の再開に向けて

 2022年度途中からは、大領地域の家であいでの「オレンジカフェ(認知症カフェ)」の再開や、特養なごみを中心とした「なごみ食堂」の内部職員向けの再開が成ったが、感染状況や扱いの変化も受けて、随時可能な企画と推進体制を鑑みながら再開も模索する。こうした活動を下支えする原資としても、昨年呼びかけをさせて頂いた寄付金を有効に活用する。さらにはもっと法人の活動を発信していく必要性と、協力者を増やしていく仕組みも必要になる。その仕組みの一つがボランティア機能の活性化であり、各事業所で地域向けに行っている事業や活動に、ボランティアコーディネーターを活用することで、地域住民や学生の参加につなげるように取り組む。職員の負担の軽減といったレベルではなく、地域住民の福祉事業に対する理解に繋がり、様々な形での協力者へと繋がっていくことを企図するものである。

 また、包括支援センターやふうがなど法人の相談機関が中心となって作って来たネットワークによる専門職の連携を有効に活用できるように情報共有を進める。また職員研修以外にも地域住民の方々に向けての研修や報告会を企画していく。

3.法人事業体制の課題

(1) 法人管理運営体制と重点課題

 理事会は4回開催で予定する。評議員会は年2回(3月・6月)の開催になる。

 運営にかかる実務上の決定は経営会議(理事長・常務理事2名・施設長クラスの部長・課長4名の計7名)を週1回、年48回の開催で推進する。主には収支の状況・職員数や時間外労働時数などの定点確認と対策・理事会決定事項の具体的推進課題の論議・正職員採用と配置・施設運営上の重要決定などを審議する。

 2023年度の重点課題としては

  • ①大型修繕の実施・・・特養なごみのベッド総交換とリフト導入、総センのエレベータ交換などその他の補修をおこない、中長期的使用に耐える状況にする
  • ②適正な人員配置と人件費管理・・・前年度に続いて、人件費の高騰を抑えつつ、個々の職員の処遇改善(特に賞与の改善)を鑑みると配置人数管理が肝要である。入退職の際には部門間連携(不足部門への充足部門からの応援)を適宜実施して部門間の状況を可能な限り均等にしていく

 その他の管理については各種委員会を定期開催して執行していく。

  • 衛生委員会…職員の健康管理
  • 研修委員会…研修計画の執行と評価、計画策定
  • 危機管理委員会…防災や感染対策について訓練の実施や備蓄関係の管理
  • 支援の質向上委員会…実践報告会や地域向け(公開)講座の企画推進
  • 広報委員会…広報誌の編集やホームページでの広報、SNS発信などを所管
  • 虐待防止委員会…不適切支援含めた虐待に類する支援についての検証とアンケートなどでの現状把握を実施

(2) 次世代育成支援対策推進法・女性活躍推進法に基づく行動計画

 また、2022年度(4〜1月の平均値)の有休休暇取得と時間外業務の状況、および2023年度の数値目標については次表の通りになる

 有給取得について2022年度は公休日を年間5日増加(年110日)となったこともあり、現状では目標達成が難しい状況のため、2023年度は目標値を継続のままとする。

 時間外業務時数については目標達成となる見込みであるため、目標時数を22年度からさらに平均1時間下げる。ただし正職員は未達成であり目標は変えていない。

 時間外業務については部門間の状況の違いが大きいため、時間外業務の多くなっている高齢系居住系(地域密着型)への対応が大きな課題になる。特に他部門職員の応援や夜勤専任に近い雇用形態の採用(週休3日制)も行いながら時間外業務の抑制につとめたい(高齢系が赤系統・障がい系が青系統で濃色が平均以上)

 次世代育成支援対策の内容としてあげられる「妊娠中の労働者及び子育てを行う労働者等の職業生活と家庭生活との両立等を支援するための雇用環境の整備」という項目では、2023年3月段階で産休が2名・育児休業中の職員は0名であるが、2023年度内に産休・育休を予定する職員は3名おり、育児休業取得者は現在在籍者で15名(うち男性4名)、子が就学期という時期に非常勤職員から正職員雇用に転換した職員が4名など働き続ける環境としては整備されつつあると言えるが、課題としては、①部門による差がある ②役職者登用が少ない(主任1名)という点があげられるため、中長期的に取り組むことになる。

(3)防災

 継続しての状況付与を伴った防災訓練の定期実施に加え、2020年度より取り組んでいる「BCP(事業継続計画)作成」の取り組みも、特養なごみ版とともに在宅系や障がい部門、法人本部、地域団体などとも連結したプランに進め、本年度でより実際的なものに作り上げて完成につなげることが課題になっている。

(4)設備・備品関係の管理

 各施設の経年劣化による大規模改修を実施する。

 以上の工事実施にあたり、金融機関からの融資申し込みをおこない、確定し次第、順次施工(導入)する。この中で特養なごみのベッド交換は中央競馬会馬主協会からの助成を申請する。総センのエレベーター交換工事は競争入札をおこなう。

(5)総務の課題

 拠点や部門が多く、情報や課題の共有、機器や設備の更新などが追い付かないことが多々あるため、引き続き効率化につとめ現場の負荷につながらないようにする。書式の簡略化やLINE公式を利用した共有の仕組みを入れる。また10月からはインボイス制度が始まり、特に就労支援事業による収益を上げる部門への対応は抜かりなく準備にあたる。

(6)2022年度第3次補正予算案の概要

 2022年12月に完了したなごみ1階の空調と換気の工事について、補助金1,333蔓延の入金が遅れており、年度替わり後になる。そこで施設整備収入から除外するのと、訴訟による解決金400万円の支払いを追加した。そのため当期資金収支差額合計はわずか142万円の黒字となった。

(7)2023年度予算案の概要

【収入】

 介護保険収入は5億9,383万円(2023年度予算案の右端:注の①になります。以下同様)で、前年度(予算)から▲735万円の減額になる。理由は前年度にあったコロナ関連経費補助金がなくなることと、小規模多機能きずな・であいでの利用者のご逝去に伴っての稼働の減少や平均介護度の低下、訪問介護でのヘルパーの高齢化による離職を置き換えられる職員が不在などによる。

 障がい福祉サービス収入は8億286万円(予算案②)で、前年度(予算)から▲1,363万円のこちらも減額で計上している。こちらもコロナ対策経費がなくなることやコロたま倶楽部の事業廃止及びじらふデイやオガリ就労などの部門での利用率の低下が予測されることを含めたためである。

 就労支援会計の減少(コロたま分他▲773万円)も含めて、収入合計で2022年度予算比▲2,913万円減少の14億3,485万円を予算額とした。

【支出】

 人件費支出は10億1,302万(④)で前年度比▲2,467万円減になる。職員の休職(産休5名)や退職者の入れ替わりによる個別給与の低下があるのが主因になるが、賞与の水準は処遇改善加算等の継続もあり、介護支援2等級以上で前年度からは引き上げている。

 昨年10月の社会保険料対象者の変更(30時間労働→週20時間以上への引き下げ)による法定福利費の増額〜月間10%の増(⑤)があり、前年度予算よりも350万円増額計上している(前年度も後半期は増額基調であったが職員のキャリアが変わったことで決算見込みよりは減る見通し)海外からの留学生や技能実習生の受け入れ雇用については、留学生は卒業し、正職員化もしくはフルタイムパート雇用により賃金改善を図る。記録や運転など業務内容に制約があり、おのおの帰国が1カ月単位に及ぶなど、現場としては調整が難しい面もあるものの、現場の介護や支援においては夜勤含めて任せられる領域も増えている。本年度は外国出身職員からも産休育休に入る職員が2名おり、長期的に定着に繋がっていくことも期待される。

 事業費支出は1億2,298万円(⑥)で前年度から560万円増になる。食材費などの高騰で給食費、電気ガス代の高騰で水道光熱費を増額している。

 事務費支出は1億7,181万円(⑧)で前年度から▲470万円減額になる。健康診断の委託先を変更し福利厚生費を縮減、コロたま倶楽部の廃止に伴う賃借料の減少(⑨)があるが、決算見込みからは増える方向になる。部門からの細かな修繕箇所の指摘があがったことや、研修費用の増額、総務職員の産休に伴い決算や経理業務の一部を委託する費用の増額(⑩)を見込んでいる。
  
 収入も下がるものの、支出も抑制に努め2022年度予算比▲3,412万円の13億3,805万円とし、事業活動資金収支差額は9,679万円の黒字(⑪)(利益率6.7%)となる。

 施設整備収支は前項(4)にあるように、収入の部で前年度の工事分による補助金収入1,333万円に加え、中央競馬馬主協会からの特養ベッドの交換とリフトの導入の補助金630万円(4月に確定)、清水基金によるみんなのマーケットるぴなすへの果実加工品機材導入補助120万円を計上し、さらに総センのエレベーター更新にあたっては2,500万円の融資を受ける方向で調整する(⑫)。各々対応する工事費・導入費用を支出で計上し、施設整備支出は8,246万円で、収支差額は3,676万円になる(⑬)。

 その他、既存の借り入れ返済や退職金積み立てなどを計上し、当期資金収支差額は4,069万円(⑭)利益率2.8%となる予算である。