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コラム「夢を抱いて」

社会福祉法人に求められるもの

2018年5月30日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

制度の持続性のための改革

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 5月21日の日本経済新聞に「社会保障費、2040年度に190兆円 介護の負担重く」との記事が掲載されていました。

 政府発表によりますと、税や保険料で賄う医療、介護など社会保障給付が2040年度に190兆円になると推計され、国内総生産(GDP)に対する比率は24%にのぼるとのことです。超高齢社会に突入した日本は、2040年には高齢者が4千万人近くとなり、人口の3分の1を占めるに至ると予想されており、給付と負担のあり方を幅広く見直す必要が求められるとしています。

 今年度の政府予算でも、社会保障費は歳出の3分の1を占めており、今後も増える社会保障費を考えると、財源の確保と事業の効率化などの対応策は急務の課題です。

 2000年、政府は戦後日本の社会福祉の在り方を抜本的に改革すべく、それまでの社会福祉事業法を改定し、社会福祉法を制定しました。その中心的目標は「福祉のサービス化」と「地域福祉の推進」にありました。

「福祉のサービス化」と社会福祉法人の役割

 介護保険制度を創設するにあたり、膨大なニーズが想定される福祉サービスを従来の行政と社会福祉法人で担うのは不可能と見た国の判断と、新たな高齢福祉サービス市場への進出を期待した経済界の思惑が一致した結果、福祉サービスの担い手に株式会社等の多様な参入を認めることになりました。その後も、福祉サービス参入緩和の要求は、特養や障害者入所施設等の第1種社会福祉事業への民間事業者参入を求める動きとして続いています。

 一方で、「社会福祉法人に多額の内部留保」等のマスコミ報道や第2次安部内閣における規制改革論議での社会福祉法人特権論など、社会福祉法人たたきが続き、社会福祉法人制度の存続が問われる事態となりました。

 厚生労働省や福祉関係者の努力の結果、「社会福祉法人のガバナンスの強化と地域公益活動の義務化」を中心とした社会福祉法改正(2017年4月)で、とりあえずの決着を見ましたが、福祉サービスに取り組む事業者の中での社会福祉法人の役割が改めて問われることになりました。

「地域福祉の推進」と社会福祉法人の役割

 今日の多様で複合的な福祉課題への対応は、地域を基盤に包括的に取り組む必要があり、ことが深刻になる前に早期発見で予防的支援が重要となっています。国は介護保険法の改正による「地域包括ケアシステム」の推進や、従来の制度の狭間で社会的孤立に陥った人々を支援する「生活困窮者自立支援法」の制定に取り組んできました。

 今年4月の社会福祉法改正では、「『我が事・丸ごと』の地域作り・包括的な支援体制の整備」を柱に「地域共生社会」を目指すとしています。第一に、地域での困りごとを「他人事」でなく、「我が事」として地域住民や福祉関係者が取り組んでいけるよう働きかけをすること。第二に、複合的な課題を「丸ごと」受け止める場をつくり、専門機関が協働して地域住民と一緒に支援していくこと等の取り組みを進めていこうというものです。更に、市町村に対し、これらの取り組みを地域づくりの仕組みとして地域福祉計画の中に位置付け、計画的に進めていくことを求めています。

 制度ごとの縦割支援が非効率や制度の狭間問題を起こしてきたこと、制度の整備が逆に家族・住民の制度任せの傾向を助長してきたことを振り返って、地域の関係者が「いずれ我が事」と考え、関わりを深めることは極めて重要です。これら地域包括的支援をめぐる取り組みでは、社会福祉法人が積極的に関わりを深めていくことが求められています。

支援の質を高める上での社会福祉法人の役割

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 今日、福祉の支援に関わる人々の輪は確実に広がってきています。従来の行政、社協、社会福祉法人以外にも、NPOや株式会社も福祉事業に関わっていますし、地域住民をはじめ多くのボランティアによる取り組みも盛んになってきています。そのこと自体は大切なことで、地域での支援の輪を更に大きく広げていくことが求められています。

  しかしながら一方で、支援者による「不適切な支援」が本人を傷つけ、混乱させ、問題の解決を困難にするという事例も多く見受けられます。福祉に関わる事業者による対人援助の原理原則を逸脱した支援が横行している実態も問題となっています。また、地域住民の関わりがなかなか広がらない背景に、「どのように関わればいいか分らない」という率直な住民の思いがあります。支援者による虐待や本人意思を無視した一方的な支援は、支援者の悪意というより「良かれと思って」なされる場合も多いため、かえって問題をややこしくしてしまっています。

 本人の意思や意向を無視して、家族・周囲の思いを優先したり、専門職としての援助方針を押し付けたりという本人支援の基本が出来ていない場合や、支援者が問題を抱え込んでしまい、他の支援者との連携や協働が不十分な場合など、支援者の不適切な対応が困難ケースを生み出す大きな要因になると言われています。

 地域の福祉事業者と共同で研修会などを開催して人材育成を図ったり、ケースを通じた適切な支援への理解を深めたりという取り組みを重ねながらネットワークを形成していくことが必要です。地域住民と一緒に個別ケースの支援に取り組む過程で、住民としての関わり方や本人理解を深めることが出来るような情報提供や学びの場を組織するなどの活動が重要となっています。

 支援者の多様化がますます進む中、社会福祉サービスの中核を担う社会福祉法人こそが「適切な支援」への理解深める働きかけの先頭に立つ役割が求められています。