pagetop

文字サイズ:小 中 大

働き続けられる職場をめざして

2012年12月1日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 設立から13年目に入ったライフサポート協会は若い職場です。今年10月の職員データーによりますと、20歳代の職員が全体の44%を占め、30歳代の29%を加えると全体の73%に上っています。

 若い男女が働く現場で、様々な困難を抱えた利用者のその人らしい暮らしを支援するために一生懸命頑張っている姿に感動し、尊敬の念が愛に変わっていくようなことがあっても不思議ではありません。

 先日も職場の仲間から素敵なカップルが誕生しました。結婚式に出席して「かっこいい!」と感じたのは、新郎が「子どもができたら、僕が育休をとって赤ちゃんの面倒と家事をする」と言ったことです。

 「家事と育児は女の務め」という性的役割分担が社会意識として存在してきた日本社会が、今や大きく変わろうとしているように感じました。

 1973年のオイルショックを契機に、世界経済の停滞と財政赤字の解決をめぐって、主要資本主義諸国に政治変革が起こりました。イギリスは労働党政権がサッチャー保守党政権に変わり、アメリカでは民主党政権からレーガン共和党政権に交替します。これら保守政権は「新保守主義」を掲げ、自由な市場経済を徹底させることで問題を解決する路線を取ります。それまでの社会保障を大幅に削減し、個人の努力と選択に委ねるとしたため、社会の格差が大きく広がりました。日本でも政権交代はなかったものの、中曽根自民党政権の下で、行政改革と民間活力の活用が叫ばれ、国鉄の民営化や福祉の削減が進められています。

 「小さい政府」と「自己責任」を掲げて公的福祉を削減していく米英の政権に対し、日本では「日本型福祉社会」が提唱されます。1979年に閣議決定された「新経済社会7か年計画」の中では、『個人の自立心と家庭の安定が基礎となって、その上に近隣社会等を中心に連帯の輪が形成されること』で、公的福祉施策を最低限に抑えようという日本型の福祉政策が打ち出されています。しかし、安定した家庭と企業が個人の福祉を保障するという形の日本型福祉社会は、高齢社会の到来とバブル経済の崩壊によって行き詰まりを見せます。

 生活の大半を企業戦士として会社に捧げることにより正社員としての安定的な収入と地位が保障された夫と、帰ってこない夫に代わって家事と子育ての務めを果たし家庭を守る専業主婦という「温かい家庭像」は、バブル崩壊以後の不況下での大量リストラ、非常勤雇用の拡大によって崩壊せざるを得ませんでした。高齢化の進行によって、低所得者に限定した措置しかない福祉制度の下で、高齢者の介護が家族、とりわけ減少する家計を補うために働き始めた主婦にのしかかってきます。その結果、介護の社会化が叫ばれ、2000年の介護保険制度の創設につながります。

正規雇用者と非正規雇用者の推移

図1・正規雇用者と非正規雇用者の推移
(クリックで拡大)

非正規雇用者の内訳(2012年)

図2・非正規雇用者の内訳(2012年)
(クリックで拡大)

M字カーブ推移の内容

図3・M字カーブ推移の内容
(クリックで拡大)

 バブル崩壊以後、非正規労働者の比率は急速に高まり、今や2.8人に1人にまで及んでいます。(図1) そして、その大半が女性の労働者です。(図2)

 女性労働の問題点にM字カーブ問題がありました。結婚や出産による退職で20歳代後半から30歳代前半の女性が職場を離れ、子どもが小学校へ行くようになれば、パートなどの非常勤に復帰する構造です。どんなにキャリアのある女性であっても、正規職員への復帰の道は厳しく、キャリアを活かせない非常勤職場しかないという差別的構造が続いてきました。

 国際的な女性差別撤廃の動きに迫られて男女雇用均等法などの制度整備が進んできましたが、正規職員と非正規職員の賃金などの処遇の格差は未だ埋められていません。その結果、正規待遇を維持するために結婚や出産をあきらめる女性が増えているのではないかと思われるデーターが出ています。(図3)

 1982年からの20年でM字の落ち込みは緩やかになっていますが、「独身・子どもなし」の女性が全般的に増加して、M字の落ち込みを埋めていることがわかります。

 晩婚化や少子化が言われますが、社会で働く楽しさを捨てて、専業主婦に納まることに魅力を感じないだけでなく、実際、専業主婦として家事と子育てに専念できるほどの所得を夫が稼げない現実、結婚後も正社員として働くにはフル稼働が求められ、子どもを産んで育てる時間を確保することは許されない職場の現実などが、その背景にあるのではないでしょうか。

 2009年に改正された育児・介護休業法では「短時間勤務制度」が義務化され、3歳未満の子どもを養育する労働者の求めに応じて労働時間の短縮を保障することなどが定められています。しかし、オランダでは「短時間正社員制度」が整備され、労働者が自分の暮らしの変化に合わせてフルタイムとパートタイムを選択して働ける制度で、基本的に正社員としての処遇は変わらないというものです。

 2004年にピークを迎えた日本の人口と労働者の数は、今後、急速に減少して行くことが予測されています。一方、超高齢化に伴う介護ニーズへの対応に必要な介護労働者は200万人に上り、現在より70万人もの確保が必要です。知識と技術・経験を積んだ女性労働者が結婚や子育てをしながら働き続けられる職場環境の確保と、短時間労働に対する待遇格差の解消が求められています。

 先日の法人評議員会では、「短時間正社員制度」の導入についての提案がなされ、新年度制度導入に向けた検討に入っています。すべての職員が子育てや介護だけでなく、自己啓発などの生涯のライフスタイルに合わせて、法人で働き続けられるような環境作りが急がれます。

 しかし一方で、家事と育児を女性の課題として考える社会の意識を変えていく事も極めて重要です。男性も家事や子育てに参加し、家族みんなで本当の温かい家庭を大切にしながら働ける「ワークライフバランス」を職場の文化に高めていきたいと思っています。

 新郎の言葉に、未来を感じたのは私だけではないように思います。